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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)164号 判決 1974年4月24日

原告

ワーグナー・エレクトリック・コーポレーション

右代表者

ワルター・ダブリユー・シヨイプライン

右訴訟代理人弁理士

倉内基弘

被告

特許庁長官

斎藤英雄

右指定代理人

渡辺清秀

外一名

主文

特許庁が、昭和四十八年六月六日、同庁昭和四四年審判第七、二八二号事件についてした審決は、取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求は、棄却する。」との判決を求めた。

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

T・S・エレクトリック・インコーポレーテッドは、昭和四十年十月三十日、一九六四年(昭和三十九年)十月三十日、アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、特許出請をし、昭和四十年十二月三十一日、T・S・インダストリース・インコーポレーテッドはT・S・エレクトリック・インコーポレーテッドからこの特許を受ける権利の譲渡を受け、昭和四十一年五月二十一日、特許庁長官にその旨の出願人名義変更届を提出し、昭和四十二年三月八日、拒絶査定を受けたので、同年七月十八日、その特許出願を、名称を「自動点滅器用のパイロット継電器」とする実用新案登録出願に変更したところ、昭和四十四年四月二十五日、拒絶査定を受けたので、同年九月四日、これに対する審判を請求し、同年審判第七、三八二号事件として審理されたが、原告は同年同月八日、T・S・インダストリース・インコーポレーテッドからこの実用新案登録を受ける権利の譲渡を受け、昭和四十五年一月十四日、特許庁長官にその旨の出願人名義変更届を提出した。しかし、昭和四十八年六月六日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年八月二十七日原告に送達(出訴期間として三か月附加)された。

二  本件審決の理由の要点

本願考案の要旨は、その明細書と図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものであると認められるところ、当審において昭和四十七年十二月二十五日付で、拒絶理由を示し、期間を指定して意見書の提出を求めたが、請求人(原告)はこれに応じない。そして、本願考案と前記拒絶理由に記載の引用例とを対比検討しても、本願は、前記拒絶理由によつて拒絶すべきである。

三  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、次の点において、違法であり、取り消されるべきである。すなわち、

前記拒絶理由の通知書において、意見書提出期間として、同通知書発送の日(昭和四十八年一月十九日)から三か月と指定されたが、原告の当時の実用新案管理人であつたが弁理士Tは、昭和四十八年三月五日辞任し(同日、その代理人辞任届を特許庁に提出)、その代理権を失つたので、本件審判手続は、実用新案法(昭和四十五年法律第九十一号による一部改正前の昭和三十四年法律第百二十三号。以下同じ。)第五十条第二項の規定により準用される特許法(昭和四十五年法律第九十一号による一部改正前の昭和三十四年法律第百二十一号。以下同じ。)第二十四条の規定及び同条の規定により準用される民事訴訟法第二百十条の規定により、中断した。原告は、その後、弁理士Kを代理人に選任し、同人は、昭和四十八年五月十六日、委任状を添えて、特許庁に代理人受任届を提出して手続を受継した。したがつて、実用新案法第五十五条第二項の規定により準用される特許法第二十四条の規定により準用される民事訴訟法第二百二十二条第二項の規定により、前記中断の時以後前記意見書提出期間は、進行しなかつたのであるから、本件審決当時(昭和四十八年六月六日)、原告は、いまだ前記意見書提出期間を徒過していないことが明らかである。したがつて、本件審決は、前記拒絶理由に対する原告の意見書を提出する機会を与えないでされたことに帰し、実用新案法第四十一条の規定により準用される特許法第百五十九条第二項の規定により準用される同法第五十条の規定に違背する手続に基づく違法なものである。

第三  被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、原告の主張事実は、すべて認めると述べた。

理由

原告が請求の原因として主張する事実は、すべて当事者間に争いがなく、右の事実によれば、本件審決は、拒絶の理由に対する原告の意見書提出期間経過前にされたものであり、結局、原告に拒絶理由に対する意見書を提出する機会を与えることなくされたことに帰するものというべく、このような違法な手続に基づくものである点において、違法たるを免れない。

よつて、その主張の点に違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八十九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 武居二郎 秋吉稔弘)

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